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> 島の匠たち 〜 山本康夫/ヤマロク醤油 〜
ヤマロク醤油
五代目
山本 康夫
ヤマロク醤油株式会社
住所 小豆郡小豆島町安田甲1607
TEL 0879-82-0666
FAX 0879-82-1293
http://yama-roku.net/
醤油・味噌・酢・みりん・酒業界で現役の木桶は約3000〜4000本。うち1000本が小豆島にある。ヤマロクには大桶40本、中桶17本の計57本。醤油業界では10数番目に位置する。
木桶の高さは約2m。階段をのぼると、上からもろみの入った木桶を眺めることができる。山本さんは発酵の進み具合に合わせて、もろみをかきまぜ、菌の仕事を手伝う。
島の東側、小豆島町にある「ひしおの郷」はボクにとって興味深い場所だった。ここは明治時代に建てられた醤油蔵や佃煮工場が軒を連ねている。その一軒、「ヤマロク醤油」には約150年前に建てられた醤油蔵がある。ボクを出迎えてくれたのは五代目、山本康夫さんと、ズラリと並ぶ大きな木桶。「この杉の木桶で醤油を造っています」。この木桶で?初めてみる光景にめんくらった。
「もっと近代的な設備かと思った・・・」と思わずつぶやいたボクに「もちろんタンクで造っている会社がほとんどですよ」と笑う山本さん。「でもうちは代々、この木桶だけで仕込んでいます」。手間も期間もタンク醸造の何倍もかかるらしいが、この仕込みにこだわるのはなぜ?「ほら、蔵の中をよく見てください。この蔵に住む菌が醤油を造ってくれるからです」。菌なんてどこにいるんだ?
ヤマロクの味を造る木桶だが、現在、桶屋は一軒しかなく、それが心配のタネ。「来年、桶を自分でメンテナンスできるよう、修業に行こうと思っています」と山本さん。
朽ちているかのように見える木桶だが、周囲に乳酸菌や酵母菌など醤油造りに欠かせない菌がびっしりとついている。その厚みは厚いところで8p近くにもなるという。
階段をのぼると木桶の中のもろみを見ることができる。発酵中のもろみの匂いはクラクラするほど。「滑って木桶に落っこちないように」との山本さんの声に気を引き締める。
静かな蔵の中で「プチッ、プチプチッ・・・」と何かが弾けるような音が響く。これは木桶の中でもろみが発酵する音。6月から7月にかけてが発酵の一番盛んな時期。
木桶にはなにやら白いカビのようなものがビッシリついている。柱や梁、土壁にもだ。鼻を近づけるとほんのりとチーズのような甘酸っぱい匂い。「お、さすがに嗅覚が鋭い。この蔵に住む菌の匂いです」と山本さん。「醤油を造るのは僕じゃない。蔵の中の百を超える種類の菌がもろみの発酵を促し、醤油を造るんです」。150年かけて育てた菌が醤油を造る。日本の調味料は奥が深いなぁ。
平成21年、12本の木桶を「借金して」新調した。桶屋いわく「醤油屋では戦後で初めて」。「今、僕が醤油を造れるのは、じいちゃんやひいじいちゃんが木桶を造り、菌を守ってくれたから。僕には子どもや孫、ひ孫に木桶と菌を引き継ぐ使命がある」。伝統を守る、と言葉でいうのは簡単なことだけど、それを果たすには固い信念と情熱が必要。山本さんの人懐っこい笑顔の中に“男気と決意”を垣間見た。
「こんにちは!」とやってきたのは山本さんの次男。「大きくなったらキミもおしょうゆ造るの?」と聞くと、「うん!にいちゃんといっしょにおしょうゆつくるんや!」とにっこり。
醤油は濃口醤油「菊醤」と再仕込み醤油「鶴醤」の2種類。菊醤ベースのだし醤油「菊つゆ」、すだちとゆずの果汁を通常のぽん酢よりも多く使った「ポン酢」もある。
「菊醤」は甘みの強い丹波の黒大豆で仕込む。「鶴醤」は国産丸大豆で仕込み、約2年熟成させた醤油を再び木桶に戻し、塩水ではなく醤油で仕込む贅沢な醤油だ。
木造平屋建ての醤油蔵は、文化庁の登録有形文化財。明治初期に建てられ、築150年近く経つ建物は趣があり、「ひしおの郷」を代表するスポットになっている。
ヤマロクの醤油は2種類のみ。一つは濃口醤油「菊醤(きくびしお)」。あっさりとしたキレと旨みがいい。もう一つは再仕込み醤油「鶴醤(つるびしお)」。とても濃厚で、後から甘みがやってくる。通常、醤油の旨み成分の含有量は1.5程度だが、鶴醤は2.3〜2.5!シンプルな料理にも合いそうだし、隠し味にもいいかも。バニラアイスにかけるとキャラメル味になるというのも気になる!
ヤマロクでは原料にこだわり、1〜3年の熟成期間をかけて醤油を造る。手間暇かかる上、なかなかお金にもならないんじゃないか?「でも、木桶仕込みのこの醤油は誰にも真似できない味。他社を一歩も二歩もリードし、ぜったいに追いつかれないものを造っている自負があります」。その言葉を裏付けるように、ヤマロクの醤油を愛する人が全国に増えている。今日、ボクもその一人になった。
鶴醤
内容量/価格
500ml/1,050円
145ml/472円
特徴
「深いコクとまろやかさ」を極限まで追求した再仕込み醤油。再仕込みの時、塩の代わりに角の取れた生醤油の塩分を利用することで、芳醇な味と香りが口の中に広がります。