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コトデン片原町駅は、始発駅となるコトデン築港駅とターミナル駅となるコトデン瓦町駅の間にある、片原町商店街に隣接した駅だ。構内にスーパーが併設されてはいるものの、通勤時間帯を外れると人通りもまばらとなってしまう。駅周辺には木造のかつて店舗だった建物が並び、一昔前の賑わいが伺える。「尚や」は片原町駅から、その一角へと入っていく路地に看板を出している。築40年は経っているだろうと思われる建物に手を入れ、カウンター席8席と小さな小上がりをひとつ設けている。10人も入れば満席となってしまうが、主と女将の二人で切り盛りするにはちょうどいいし、地の肴と人の情に酔いしれることができる。 |
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この尚や、我らスタッフの常とする店だが、今宵は友人のフランス人ジャンを伴って暖簾をくぐる。いらっしゃいませ、といつもの声。そして地の魚や肉がぎっしりと並ぶネタケースが我々を迎えてくれる。古民家とも言えない古く小さな店に、美味そうに並ぶネタ。こうした店は初めてだったのだろう、ジャンは目を見開き、ワォ?!美味しそうですね?、が第一声となった。この日もネタケースには、アジ、サヨリ、カレイ、モエビなどの「瀬戸の小魚」と称される魚介、脇に地鶏が並ぶ。美味いのはネタケースの中身ばかりではない。カウンターの大皿に盛られた料理、小鉢でいただくのだが、これがまた美味い。遊び心が感じられる料理だ。 |
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尚やの魅力は、なんといっても料理のアレンジ力。和の料理はもちろんだが、料理にオリーブオイルを使ったりもする。イタリア風のアレンジは女将がアイデアを出し、主が好い具合に料理する。この日はジャンのために鰯のオリーブオイル焼きなどを注文した。ジャンはどの料理にも感激しきり。美味しいが故に、鰯のオリーブオイル焼きにはもう少し味にアクセントを付けた方が良い、などと欲深い注文を付けていた。さらにサヨリの刺身と和え物を食べた時は、同じ素材をシンプルに料理しているだけなのに、どうして味わいが違うのか!と目を白黒させていた。 |
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カウンター席は、満席にもなると隣の客と肘と肘がぶつかってしまいそうになる。こういう店なので大概は顔見知りなのだが、ジャンのように初めて来店した客も居心地良く舌鼓を打てる。料理の話し、サッカーの話し、ゴルフの話し…。見知らぬ隣人の話しに相槌を打ちながら、自然とその中に入っていける。酒がすすめば尚更である。ジャンはもっぱら料理に興味を示し、女将と料理談義に花を咲かせていたが、異文化の地で生まれ育った彼の目には私たちが気付いていない魅力が映っているのだ。毎日口にする讃岐の料理、ふれ合う人々、そこかしこに魅力が隠れているのだろう。 |
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